投稿者:おふう 2000/08/27 (日) 23:37:20      [mirai]
誰も居ない場所で、真冬にアイスクリームを食べる少女と他愛ない話で笑い合う。
何気ないやり取りのひとつひとつが、栞の言う通り大切な思い出に還っていく…。
【栞】「祐一さん、顔に焼きそばのソースがついていますよ」
【祐一】「うわっ、取ってくれっ」
ノ
【栞】「わー。ストールで拭かないでくださいー」
【祐一】「俺、ハンカチ持ってないんだ」
【栞】「そんなことする人、嫌いですー」
いつまでもこんな時間が続けばいいのに、と純粋にそう思えた。
【祐一】「そう言えば、栞って趣味とかないのか?」
【栞】「趣味…ですか?」
公園で簡単に昼食を食べた後、俺たちは商店街に向かって歩いていた。
時間はまだ3時過ぎ。
解散するには早すぎたし、俺たちもまだ遊び足りなかった。
【祐一】「薬コレクションとアイスクリームを食べること以外に」
【栞】「両方趣味じゃないですよ」
ぷーっと膨れてから、そして考え込むような仕草を見せる。
【栞】「…趣味ですか…そうですね…」
暫く歩いて、ふと立ち止まる。
【栞】「私、絵を描くことが好きです」
言ってから、気恥ずかしそうに目を細めて照れたような笑顔を覗かせた。
【栞】「最近は描かなくなりましたけど、昔はスケッチブックを持ってよく絵を描きに行ってました」
【栞】「今日の公園も、その時に偶然見つけたんです」
【祐一】「絵って、抽象画とかか?」
【栞】「風景画です」
【栞】「それと…似顔絵もよく描いていました」
【祐一】「結構本格的だったんだな」
【栞】「まだまだヘタですけど…」
【栞】「でも、絵を描いていると楽しいんです」
【栞】「何もなかった真っ白な画用紙が、色とりどりの絵の具で埋まっていく…」
【栞】「そして、最後にはひとつの風景がその中にできあがるんです」
いつの間にか、俺たちは再び歩き出していた。
編み目に張った枝の隙間から青い空が覗き、光に透けた雪がきらきらと光る。
雪の街でしか見ることの出来ない、どこか神秘的な情景の中を歩く。
この風景も、栞はスケッチブックに描いたのだろうか…。
【栞】「でも、私ヘタですから、あんまり風景に見えないんです…」
【栞】「似顔絵の方が得意です、私」
【祐一】「今度見てみたいな。栞の描いた風景」
・
・
【栞】「やです。恥ずかしいですから…」
顔を赤くして、足下を見る。
どうしても見たい
だったら、似顔絵を見たい
【祐一】「どうしても見たい」
【栞】「……」
【祐一】「大丈夫だって、俺だって専門的なことは何も分からないんだから」
【栞】「…どーしてもですか?」
視線をあげて、俺の顔を覗き込む。
【祐一】「全部とは言わないから」
【栞】「分かりました…。今度持ってきます」
【栞】「でも…」
【栞】「絶対に笑わないでくださいね」
【祐一】「大丈夫だって。笑ったりしないから」
【栞】「はい。約束ですよ」
やがて、雪の林道に出口が見えてきた。
そのすぐ先は、もう商店街だった。
【祐一】「だったら、自信のある似顔絵でいいぞ」
【栞】「…自信はないですけど」
本当に自信がなさそうに、声が小さくなる。
【栞】「…あ。それなら、祐一さんの似顔絵描きます」
視線を戻して、俺の顔をじっと見つめる。
【栞】「それでいいですか?」
【祐一】「俺なんかがモデルでいいのか?」
【栞】「そうですね、やめましょうか」
【祐一】「うわ、ひでぇ」
【栞】「冗談です」
【祐一】「うぐぅ」
【栞】「わー。やっぱり気になりますー」
【祐一】「やっぱり秘密」
【栞】「ひどいですー」
顔を見合わせてひとしきり笑った後に、栞が表情をほころばせたまま言葉を続ける。
【栞】「えっと、それで祐一さんの似顔絵、構わないですか?」
【祐一】「俺は全然」
【栞】「それでは、今度スケッチブック持ってきますね」
やがて、雪の林道に出口が見えてきた。
そのすぐ先は、もう商店街だった。
特に目的地があるわけではないが、栞とふたりで商店街を出て何気なく街中を歩く。