投稿者:おふう 2000/08/27 (日) 23:50:03 ▼ ◇ [mirai]【栞】「あ、祐一さん、動かないでくださいっ」
栞は、どこからともなく空色のスケッチブックを取り出していた。
【祐一】「似顔絵だろ? だったら多少動いたって…」
【栞】「ダメですっ」
【祐一】「……」
表紙をめくって、真剣な表情でスケッチブックにコンテを走らせる。
しゅっ、しゅっ…。
休み時間の喧噪も届かない校舎裏に、紙の擦れる音だけが響く。
そんなゆっくりとした時間が、しばらくの間、流れていた。
でも、不思議とその時間が退屈ではなかった。
【栞】「…もう少しでできますよ」
【祐一】「そういや、普段は誰を描いてるんだ?」
【栞】「そうですね…」
しゅっ、しゅっ…。
【栞】「家族、です…」
声が少し沈んだような気がしたが、スケッチブックに隠れて表情は分からない。
【栞】「でも、私がスケッチブック持って行くと、みんな逃げるんですよ」
【祐一】「どうして逃げるんだ?」
【栞】「モデルになるのが嫌みたいです…」
【祐一】「確かに、長時間じっとしていないとダメだからなぁ」
【栞】「…出来ました」
ぱたん、とスケッチブックを閉じる。
【祐一】「お。出来たのか?」
【栞】「…見ます?」
【祐一】「もちろん見るぞ」
【栞】「…見ても、怒らないでくださいね」
【祐一】「大丈夫だって」
スケッチブックを受け取って、栞の心配げな視線を感じながら表紙を開く。
【祐一】「……」
【栞】「どうですか…?」
緊張の面もちで、俺の反応をじっと窺う。
【祐一】「…栞」
【栞】「…はい」
【祐一】「…正直、向いてないと思う」
【栞】「…やっぱり、そうなんですか?」
【祐一】「ほとんど子供の落書きだ」
【栞】「…普通、本当にそう思っても、そこまではっきりとは言いませんよ」
【祐一】「いや、正直に言った方が本人のためかな、と…」
【栞】「それでもひどいですー。もう少し言い方があるじゃないですか」
【祐一】「そうだな…。だったら、味があるとか」
【栞】「…あんまり嬉しくないです」
俯いた顔が悲しそうだった。
もしかすると、家族がモデルになるのを嫌がった理由って…。
【栞】「祐一さん、もしかして失礼なこと考えていませんか?」
【祐一】「い、いや、全然」
【栞】「なんか怪しいですよー」
栞はとても鋭かった。
【祐一】「でも、折角だからこの似顔絵貰ってもいいか?」
【栞】「いいんですか、こんな絵で?」
【祐一】「栞が俺のために描いてくれたものだからな、どんなのでも嬉しいよ」
【栞】「どんなのでも、という台詞が気になりますけど…でも、そう言って貰えると嬉しいです」
【祐一】「それに、好きなんだったら、いつか上手くなるって」
【栞】「…はい」
栞の頭にぽんと手を重ねると、栞はくすぐったそうな表情で頷いた。
【栞】「…あ」
やがて、チャイムの音が中庭にも響く。