投稿者:おふう 2000/08/27 (日) 23:51:03      [mirai]
チャイムが鳴って、俺はそそくさと帰り支度を始める。
【名雪】「祐一、放課後だよっ…」
【名雪】「…って、わ。もう帰る体勢になってる」
【祐一】「じゃあな、名雪」
【名雪】「う、うん」
戸惑う名雪を残して、俺は真っ先に教室をあとにする。
【栞】「…あ、祐一さん」
噴水の前で、ぽつんと栞が立っていた。
【祐一】「ここって、本当に人が少ないな…」
【栞】「穴場ですから」
とたとたと俺のところに駆け寄る栞が、大きく伸びをする。
【栞】「今日もいいお天気ですー」
青さを実感するように空を見上げる。
風は穏やかで、そして陽の光は確かに暖かかった。
【栞】「やっぱり、私の日頃の行いですよね」
【祐一】「さて、雷雨になる前に帰るか」
【栞】「どうして、そういうこと言うんですか」
【祐一】「冗談だ」
水の流れる音。
降り積もった雪が、微かな風にさらされて、白く舞っている。
【祐一】「とりあえず座ろうか、栞」
噴水の縁に残った雪を払いのけて、そして、先に栞を促す。
【栞】「ありがとうございます、祐一さん」
栞は笑顔で頷いて、そしてゆっくりと腰を下ろす。
【栞】「ちょっと冷たいです」
困ったように微笑んで、俺の顔を見上げる。
【栞】「本当に、いいお天気ですね」
【祐一】「そうだな…」
本心からそう思う。
間近で聞こえる水の音…。
【栞】「祐一さんも、座ってください」
白い吐息が流れる。
【栞】「私だけ冷たいなんて不公平です」
【祐一】「…そうだな」
うなずき、栞のすぐ横に腰掛ける。
雪解けの湿ったコンクリートは、確かに冷たかった。
【栞】「…今、ちょっと思ったんですけど」
噴水の縁に、ちょこんと腰かけた栞が、ふと思い出したように顔をあげる。
【栞】「今の私たちって、ドラマでよくありそうなシチュエーションですよね?」
【祐一】「栞、ドラマとか見るのか?」
【栞】「私、こう見えても放送されているドラマは全部見てますから」
【祐一】「ちょっと意外だな」
【栞】「そうですか?」
【祐一】「何となく、な」
【栞】「家にいると、本を読むかテレビを見るくらいしか、やることがないんです」
【祐一】「それで、ドラマだとこれはどんなシーンなんだ?」
【栞】「…そうですね」
【栞】「ありがちですけど、キスシーンです」
【祐一】「お約束すぎるな」
【栞】「そうですねぇ」
【栞】「でも、私はそういうお約束は嫌いではないです」
【栞】「だって…お話の中でくらい、ハッピーエンドが見たいじゃないですか」
【栞】「辛いのは、現実だけで充分です」
【栞】「幸せな結末を夢見て…そして、物語が生まれたんだと、私は思っていますから」
どこか寂しそうに笑いながら、小首を傾げる。
【栞】「ちょっと、かっこいいですよね」
【祐一】「栞…」
【栞】「はい?」
【祐一】「俺は、ドラマはあまり見ないけど…」
【祐一】「でも、今ここで、そんなありがちな場面を見てみたい」
【栞】「…え?」
俺の言葉に、驚いたような、戸惑うような声をあげる。
【栞】「…どうして、ですか…?」
【祐一】「栞のことが、好きだから」
【栞】「……」
【祐一】「ずっと一緒にいたいと思ってる」
【祐一】「これから、何日経っても、何ヶ月経っても、何年経っても…」
【祐一】「栞のすぐ側で立っている人が、俺でありたいと思う」
【栞】「……」
【祐一】「……」
【栞】「ホントに、ドラマみたいですね…」
【祐一】「そうだな…」
【栞】「…祐一さん」
【栞】「私、ダメです」
小さく、それでもはっきりと言葉を続ける。
【栞】「祐一さんの気持ちに、応えることはできないです…」
そこにあったのは、確かな拒絶の意志だった。
【祐一】「…そうか」
【栞】「…私…今日は帰ります」
立ち上がって、スカートの雪も払わずに、頭を下げる。
【祐一】「……」
【栞】「…祐一さん」
背中を向けたままで…。
【栞】「…ごめんなさい、です」
そして、走り出す。
謝る
そのまま見送る
【祐一】「…ごめんな、栞」
【栞】「…謝らないでください」
【栞】「悪いのは、全部私なんですから…」
【祐一】「……」
お互い、言葉が続かなかった…。
やがて、栞の背中が見えなくなる…。
【祐一】「…俺も、帰るか」
静かな公園に、水面を叩く噴水の音だけが響いていた…。
俺は、その小さな後ろ姿を、ただ黙って見送ることしかできなかった…。
チャイムが鳴って、今日も無事に一日が終わった。