投稿者:おふう 2000/08/27 (日) 23:54:43      [mirai]
視線を夜の公園に向けたまま、言葉を続ける。
聞きたくなかった。
知りたくなかった。
だけど、それが事実であるのなら、俺はその事実を知りたい。
栞の…俺が本当に好きな人の口から、直接。
【栞】「祐一さん、ごめんなさい」
【祐一】「……」
謝罪の言葉を、無言で受け止める。
今、自分がどんな表情をしているのか、俺には分からなかった。
【栞】「私、祐一さんに嘘ついてました」
【祐一】「本当は風邪なんかじゃなかったんだろ?」
【栞】「はい…」
【栞】「本当は、もっともっと、重い病気…」
【栞】「たくさんのお薬を飲んで、もっとたくさんの注射をしても治らない病気…」
【栞】「そして…お医者さんに次のお誕生日を迎えることはできないって…」
【栞】「…言われて…」
言葉が曇る。
【祐一】「…なんの病気なんだ…?」
【栞】「病名…ですか?」
初めて俺の方を見つめて、
笑顔で、
悲しいくらいの笑顔で、
【栞】「えっと…覚えてないです」
にこっと微笑む。
【栞】「何か、難しい名前だったことは覚えていますけど」
【祐一】「……」
【栞】「だって…病名が分かっても…どうにもならないことに違いはないですから」
【栞】「だから…」
【栞】「名前なんて、そんなの意味ないです」
【祐一】「……」
笑顔だった。
すべてを受け入れて、すべてを諦めて…。
【栞】「もうひとつ、謝らないと…」
【祐一】「……」
【栞】「私、祐一さんのこと、好きです」
【祐一】「……」
【栞】「たぶん、他の誰よりも祐一さんのことが好きです」
【祐一】「……」
【栞】「本当は、誰も好きになったらいけなかったんです」
【栞】「誰にも心を開いてはいけなかったんです」
【栞】「辛くなるだけだって…」
【栞】「分かっていたから…」
言葉が出てこなかった。
俺の瞳をまっすぐ見つめる少女。
【栞】「でも、ダメでした」
綺麗な瞳だと思った。
【栞】「どんなに迷惑がられても、私は祐一さんのことが好きです」
【祐一】「……」
【栞】「…本当は、こんなこと言っても…何の意味もないのに…」
【栞】「悲しくなるだけだって、分かってるのに…」
【栞】「私…馬鹿だから…」
【栞】「…お姉ちゃんに嫌われるくらい…馬鹿だから…」
【祐一】「……」
【栞】「ごめんなさい、祐一さん…」
【栞】「また、嘘ついてしまいました」
そして、いつものように、ただニコッと笑う。
この少女は、泣くことはないのだろうか…。
ふと、そんなことを思う。
【栞】「…それだけが、どうしても祐一さんに謝りたかったんです」
【祐一】「…栞」
【栞】「はい?」
【祐一】「…ドラマだと、これはどんなシーンなんだ?」
【栞】「…え?」
【祐一】「……」
【栞】「…そう…ですね…」
【栞】「ありがち…ですけど…キスシーンです…」
【祐一】「お約束すぎるな…」
【栞】「そう…ですね…」
【栞】「でも…私はそんなお約束は嫌いではないです…」
【栞】「…だって…お話の中でくらい…ハッピーエンドが…見たいじゃないですか…」
【栞】「辛いのは…」
【栞】「…現実だけで…充分です」
【栞】「幸せな結末を夢見て…そして…物語が生まれたんだと…私は思っていますから」
【栞】「ちょっと…かっこいいですよね…」
震える声で…。
精一杯の言葉を…。