投稿者:おふう 2000/08/27 (日) 23:55:35 ▼ ◇ [mirai]【祐一】「栞…」
【栞】「はい…」
【祐一】「俺は、ドラマはあまり見ないけど…」
【祐一】「でも、今ここで…そんなありがちな場面を見てみたい」
【栞】「……」
【栞】「…どうして…ですか…?」
【祐一】「やっぱり、栞のことが好きだから」
【栞】「……」
【祐一】「ずっと一緒にいたいと思ってる」
【祐一】「これから…何日経っても、何ヶ月経っても、何年経っても…」
【祐一】「栞のすぐ側で立っている人が、俺でありたいと思う」
【栞】「…ホントに…ドラマみたいですね…」
【祐一】「そうだな…」
【栞】「祐一さん、ひとつだけ約束してください」
視線を俺の方に向けて、そして一度区切った言葉を、もう一度続ける。
【栞】「私のことを、普通の女の子として扱ってください」
【栞】「学校に通って、みんなと一緒にお昼を食べて…」
【栞】「好きな人と、商店街を歩いて…」
【栞】「お休みの日は、遠くまで出かけて…」
【栞】「夜遅くなるまで遊んで、お父さんとお母さんに怒られて…」
【栞】「でも、お姉ちゃんがかばってくれて…」
【祐一】「……」
【栞】「私は戻ることができるんです」
【栞】「楽しかった、あの頃に…」
【栞】「元気だった、ただその日その日を精一杯生きていた、あの頃に」
一瞬だけ覗かせた、泣き笑いの表情。
だけど、それもすべてを諦めた様な笑顔にとってかわられる。
【栞】「でも、1週間だけです」
【栞】「1週間後の2月1日…私は、祐一さんの前からいなくなります」
【栞】「それ以上の時間は、祐一さんにとっても、私にとっても、悲しい思い出を増やすだけですから…」
【祐一】「……」
【栞】「ですから、1週間です」
【栞】「…それでも、本当に私を受け入れてもらえますか?」
【祐一】「……」
約束する
約束はできない
【祐一】「……」
今になって分かった。
香里が背負っていた悲しみの本当の重さ…。
【祐一】「……」
俺は、頷くことができなかった。
【栞】「…そうです、よね」
最初から予測していたのか、表情を変えることなく頷く。
【栞】「今日は、会えて嬉しかったです」
【祐一】「……」
【栞】「それでは、これで失礼します」
【祐一】「…いつか、また会えるといいな」
【栞】「そうですね。会えるといいです」
【祐一】「じゃあな」
【栞】「はい。さようなら、です」
笑顔のまま振り返って、そしてひとり闇の中を歩いていく。
【栞】「祐一さん…」
【栞】「今まで、本当にありがとうございました」
【祐一】「……」
最後の言葉をただ聞きながら、俺は栞の姿が消えてなくなるまでその場所で佇んでいた。
【祐一】「……」
俺は、最後に栞を受け入れることができなかった。
いなくなると分かっている人を、ずっと好きでいられる自信がなかった…。
【祐一】「…俺は弱い人間だから」
言い訳のように呟く。
香里と同じように、本当に好きな人を拒絶したまま…。
【祐一】「約束する」
【栞】「ありがとうございます」
無邪気な笑顔が痛かった。
信じたくないであろう事実を突きつけられて、それでも精一杯生きることができる小さな少女。
事実から目を背けることもなく、真正面から受け止めること。
俺に、この強さがあるのだろうか?
もし、直視することのできない事実を目の前に突きつけられたときに、
俺は事実を事実として受け入れることができるのだろうか?
だからせめて、俺は栞をひとりにはしたくなかった。
好きだから。
本当に好きだと言える人だから。
夜の公園。
冷たい風。
ざわめく水。
街灯の明かり。
噴水の縁に座るふたり。
【栞】「一ヶ月早かったら、ちょうどクリスマスですね」
【祐一】「そうだな」
【栞】「ちょっとだけ、残念です」