投稿者:おふう 2000/08/27 (日) 23:56:10      [mirai]
本当に残念そうに、それでも笑顔を続けながら、ゆっくりと目を閉じる。
噴水が止まっていた。
静寂が夜の公園を包んでいた。
緩やかな水面に、二人の姿が映る。
抱きしめた少女の体は小さくて、
怯える小動物のように小刻みに震えていた。
……ゆっくりと、時間が動く。
……どちらからともなく、顔を近づけ…。
初めて触れる、雪のように白い少女の唇は、柔らかくて、そして温かかった。
【栞】「あったかいです…」
すぐ間近で、栞が微笑んでいた。
そして、
この瞬間、栞は普通の女の子になった。
自分の精一杯のために。
1週間の間だけ…。
夜の公園。
また風が出てきたのか、見上げた夜空には雲が流れていた。
【栞】「えっと、それではこれで帰ります」
【祐一】「大丈夫か?」
【栞】「大丈夫です。私の家、この近所ですから」
【祐一】「だったら大丈夫だな」
【栞】「もし、痴漢がでたら大声あげますから、助けに来てくださいね」
【祐一】「誰も好きこのんで栞なんか狙わないだろ」
【栞】「そんなことないですっ。そんなこと言う人、嫌いですっ」
【祐一】「冗談だって」
【栞】「冗談でもひどいです」
【祐一】「で、本当に送らなくて大丈夫なのか?」
【栞】「はい、本当に大丈夫です」
【祐一】「そうか、じゃあ気をつけてな」
【栞】「それでは、また…」
【祐一】「ああ、また明日な」
【栞】「はいっ」
頷いて、振り向いて、そして歩き出す。
遠ざかる栞の背中。
【祐一】「……」
闇に溶けるように。
【祐一】「栞っ!」
【栞】「……」
呼び止めた声。
もう一度振り返る栞。
【栞】「……」
【祐一】「何とかならないのか…」
【栞】「……」
【祐一】「もう、どうしようもない状態なのか…」
【栞】「…はい」
小さく、それでも確かに首を傾ける。
【祐一】「本当に、どうしようもないのか…!」
それでも何かにすがるように、言葉を続ける。
それが、栞にとって苦痛にしかならないことを知っていながら。
【栞】「そうですね…」
雪のように白い肌…。
【栞】「奇跡でも起きれば何とかなりますよ」
【祐一】「……」
【栞】「…でも」
穏やかに微笑みながら、自分の運命を悟り、そして受け入れた少女が言葉を続ける。
【栞】「起きないから、奇跡って言うんですよ」
冷たく流れる風の中、
飛沫をあげる水の音、
俺は、栞の姿が見えなくなるまで、ずっとずっと闇の中に立っていた。