> 2000/08/30 (水) 05:56:37 ▼ ◇ [mirai]> 感動のフィナーレまだぁ?
【天野】「こんにちは」
と天野が言った。
【祐一】「こんにちは」
と俺は答えた。
【天野】「いいお日柄ですね」
【祐一】「天野は相変わらず、おばさんクサイな」
【天野】「ひどいですね。物腰が上品だと言ってください」
俺と天野はこうしてたまに時間を合わせては、話をするようになっていた。
【天野】「約束は守ってくださっているようですね」
【祐一】「ああ。元気だけが取り柄のようなもんだ」
【祐一】「心配ないよ」
【天野】「そうですか。良かったです」
俺に感化されるように、天野も明るくなってきているような気がする。
嬉しかった。
【天野】「また、あの子たちは…あの丘を走り回っているんでしょうかね」
【祐一】「だろうな」
俺たちは、そこからでは見えるはずのない丘を見ていた。
【天野】「小さな営みの中、また新しい命が生まれ、育まれて…」
【天野】「そしてまた…人の温もりに憧れる子が出てくるんでしょうか」
【祐一】「そうかも…な」
【天野】「でもそれは仕方がないですね。あの子たちの性分ですから」
【祐一】「さすが、昔話になるだけのことはあるってことだな」
【天野】「でも…」
一呼吸置いて、天野が真剣な面もちとなる。
【天野】「もしかすると、この街に住む人間の、その半分ぐらいがあの子たちなのかもしれませんよ?」
【祐一】「え?」
【天野】「それと気づいていないだけで、みんな人ではないのかもしれません」
真顔で、しばらく俺の顔を見つめてから、そして笑顔になる。
【天野】「あははっ…冗談ですよ。そんなことないです」
【祐一】「はは…びっくりさせるようなことを言うな。想像してしまっただろ」
【天野】「ええ、可笑しかったですよ、今の相沢さんの表情は」
俺たちは笑い合った。
【天野】「でも、あの丘に住む狐が、みんな不思議な力を持ってるのだとしたら…」
【天野】「たくさん集まれば、とんでもない奇跡を起こせる、ということなのでしょうね」
また天野がおかしなことを言い始める。それは、本来の癖なのかもしれない。
妄想を口にしてしまうのは、女の子らしい、悪くない癖だ。
【天野】「たとえば…空から、お菓子を降らせてみたり」
【祐一】「なんだよ、そりゃ」
【天野】「夢ですよ、夢」
【天野】「空から、お菓子が降ってきたりすれば、素敵だと思いませんか?」
【祐一】「思わないね。道に落ちたお菓子は汚いし、交通機関が麻痺してしまうだろ」
【天野】「相沢さんは、現実的すぎます」
【祐一】「いや、そうでもないよ」
【天野】「そうですか?」
【天野】「…そうですよね」
天野が、空を仰いだ。
俺たちは、同じ夢の中にいて、そこから帰ってきた人間だった。
【天野】「じゃあ、相沢さんなら、何をお願いしますか?」
くるん、と天野が体をひねって、俺の顔を覗き込んでいた。
【祐一】「そうだな…」
そんなことは決まっていた。
参考:2000/08/30(水)05時51分29秒