投稿者: 2000/09/21 (木) 03:46:15 ▼ ◇ [mirai]今日はとても良いお天気だ。澄んだ空気が気持ち良くて、もし私の背中に羽根があったのなら、
あの空に浮かぶ一筋の飛行機雲を追いかけて行きたい。だが、羽根のない私は、地上に連なる、
ある小汚いお店に入っていった。
「お、美凪ちゃんいらっしゃい」
通称“少佐”と呼ばれているスキンヘッドのおじさんが出迎える。常連の私は軽く笑顔で答え、
ショーケースに目を移した。
「……このcC0の800を頂けますか?」
「はいよ。それよりこっちのはどうだい? 35週もので、L1をショートさせたブツだよ」
「余計なこと言ってないで、早く言われた品を出してください……」
「あ、ああゴメンよ。美凪ちゃんにはかなわんなー」
私は気が短い。それに根暗なところもあって周りから敬遠されている。でも気にしない……。
次の目的地に向かう途中、アキバ名物の国籍不詳の外国人が声を掛けてきた。
「オネイサン アドビ ヤスイヨ。10ポンイリデ ニセンエン」
そう言いながら、懐にある銀色のCD-ROMを見せつける。
「結構です。アドビはだいたい持ってますし。写真屋なんて全バージョンコンプリートしてま
すよ……ふふ」
その道のスキルは持ち合わせているので、こんな外人のお世話などは無用である。
幾重の紙袋とバズーカー人間をかわし、本日もう一つの目的地に辿り着いた。
『ゲーマーズ』。ここは、私の大好きな『デ・ジ・キャラット』のキャラクターグッズで溢
れているお店だ。私は『でじこ』に萌えている。クラスメイトの誰も知らない私の秘密だ……。
「あ、遠野さん」
「っ! 神尾、さん……」
目当てのグッズを手に入れ満悦した顔でお店を出ると、そこにはクラスメイトの「神尾観鈴」
がいた。
「お買い物?」
顔から血の気が引いていくのが分かる。私の白い肌はますます白くなっているのだろう。
「…………はい。神尾さんも?」
「うん、素敵なサムシングのサトームセンで、たまたま見付けたコピーガードキャンセラーを
買ったんだ」
言い終えると、『遠野さんは何を買ったの?』というように、でじこ達があしらわれたゲー
マーズのビニール袋を見つめる。
「………………わ、私は……現代における若者の嗜好を見直すことにより、失われた太古の文
明の謎を別の視点で捉えることが出来ると思って、その古代の優れた天文学が私にとって重要
であり、別に、今回の研究対象の素材自体に心を動かされたわけではなくて、その先にあるも
のが目的であるから変な推察をされても困ってしまうんだけど、でじこ……とか言うらしいメ
イド服ロリ猫耳毒舌という、いかにも狙いました的なキャラクターは見事であるとは認めよう
かと……」
「……にはは。遠野さんって独特の感性持ってるんだねぇー。がお」
「…………そう?」
「うんうん。あ、そうだ、お母さんと待ち合わせしてるからもう行くね。じゃあねー」
もう一つの私に気付くことなく、神尾観鈴は去っていった。
私は短気で根暗でオタクで……守秘的である。