真夏の午後だった。 陽射しは強く、見上げるとそのまま白い光にとけ込んでしまいそうな眩しさだった。 暑い、といっても都会のいやな暑さとは違う。 カラッとした清々しい風が吹いていた。 ざっと辺りを見渡すと、白や灰色より圧倒的に緑が多い。 いまさらながら田舎に来たことを実感し、胸が躍った。 向こうには山が見える。 真っ直ぐ延びた道は、500メートルほど向こうから緩やかな傾斜になって、鮮やかな緑へと続いていた。 海も近い。 電車の窓からはずっと青い海が広がりを見せていた。 自転車を借りて川を下っていけば、10分ほどで着くだろう。 山と海、どっちへ行こうか。 決まってる、どっちもだ。 夕暮れまでにはまだたっぷりと時間がある。 とにかくせっかく田舎に来たのだから、普段味わえないことを満喫したい。 見知らぬ土地でひとりきり。 不思議と寂しさは感じなかった。 それどころか、どこかなつかしいものさえ感じていた。