投稿者:   2000/10/23 (月) 01:27:27      [mirai]
道は徐々に勾配がきつくなり、途中からは未舗装のジャリ道になった。
 道の横には流れの速い川が流れている。
 黄色いショベルカーが止められていた辺りで、
「こっからは歩いてこう」
 少年が自転車を降りて言った。
「自転車、盗られないか?」
「鍵かければ大丈夫。盗るやつなんかいないよ」
 自転車の鍵を掛け、釣り竿とバケツを持つと、少年はさっさと上流へと向かって歩き出した。
 耕一も続く。
 少年の足は速かった。
 まるでどんどん加速していくかのように、ひょいひょいと先へ進んでいく。
「どの辺まで行くんだ?」
「水門のもっと上」
「ここじゃ釣れないのか」
「釣れるけどこの辺はフナばっかだ。たまにコイもいるけど」
「フナじゃダメなのか」
「フナなんか誰も喜ばないぜ。マズイし」
「食うのか?」
「オレはあんまり食わないけど、父さんは食うよ」
「焼いて?」
「甘く煮る。でもうまくない。ヤマメは焼くよ。ヤマメはうまいってさ」
「ヤマメは、上にいるのか?」
「ああ。おとついも二匹釣った」
「へえ」
 耕一はヤマメがどんな魚か知らなかった。
 だがそんなことはどうでもよかった。
 それよりも。
 自分で釣った魚を、焼いて食う。
 なによりも以前から憧れていたことだった。